目次
災害発生後、対応のスピードと質を向上させるには、迅速な情報収集および災害対策本部の効率的な意思決定が重要です。いざというときに備えて、これらの手順や方法を習得する災害対策本部向けの訓練を定期的に実施することが必要となります。
ここでは災害対策本部における情報の収集伝達や意思決定などの訓練について、参考となるシナリオサンプルを紹介します。訓練に必要なシナリオ作成のポイントもまとめました。
【サンプル】災害対策本部の訓練シナリオ
【前提条件】
- 目的:策定したBCPの検証、課題の抽出
- テーマ:
事業継続に向けて各班が必要な初動対応を行う
集約された情報をもとに災害対策本部が事業継続に必要な情報を整理し、次の対応を判断する - 発生した災害:5月21日(木)14:00、震度7の首都直下型地震発生
- 被害想定:ビル停電、公共交通機関の停止など
- 訓練対象者:災害対策本部のメンバー
- 訓練フェーズ:初動対応~事業継続活動の判断まで
- 訓練方法:ロールプレイング訓練
- 訓練実施場所:会議室A
| 被害状況や災害時業務 | 進行管理者またはBCP訓練事務局の対応 | 参加者の対応 | |
|---|---|---|---|
| 1 | 震度7の地震発生 | 緊急地震速報を口頭で伝える | テーブルの下に隠れて、身を守る |
| 2 | 停電発生 | まだ揺れが続いていることと、事業所の停電が発生したことを口頭で伝える | 揺れが収まるまで、テーブルの下に隠れたまま待機する |
| 3 | 避難開始 | 揺れが収まったことと、避難指示のアナウンスを口頭で伝える |
避難誘導班:周りの安全を確認し、避難開始(実際に避難するのではなく、避難誘導の手順やルートを進行管理者に伝える) 救護班:避難先に持っていくものを確認(救急箱など) 消火班:事業者内で火災が起きていないか確認しつつ、ガス栓を閉めるなどの対応を行う |
| 4 | 災害対策本部立ち上げ | 現在起きている状況をスクリーンに映し出す
|
代替場所○○に災害対策本部立ち上げ 各班で対応開始 |
| 5 | 安否確認 |
従業員の安否状況をまとめた付与シナリオの資料を安否確認班に渡す
|
安否確認班:避難してきた従業員の安否確認を直接行い、けが人がいる場合は救護班へ伝える 発災時に事業所にいなかった従業員には社用携帯を使い、電話連絡を行う 救護班:安否確認班からけが人の報告を受けたら、応急処置を開始する |
| 情報収集 |
公共交通機関や道路情報、ライフラインなどの情報を情報収集班が求めるタイミングで個別に資料として渡す
|
情報収集班:ラジオや市町村からのFAX、防災行政無線などで災害情報や被害情報を集める | |
| 社内の被害状況確認 |
社内外の被害状況をまとめた付与シナリオの資料を個別に渡す
|
業務対応・運用班:建物や設備、システムなどの被害状況を確認する 安否確認班:関連企業や取引先の被害状況を確認する |
|
| 6 | 災害対策本部へ情報共有 | ‐ |
各班が収集した情報を整理し、災害対策本部へ伝える 災害対策本部は収集した情報をホワイトボードに書き込む |
| 7 | 第一回災害対策 本部会議 |
行政より一斉帰宅抑制の呼びかけがあったことを次の付与状況としてスクリーンに映し出す | 災害対策本部:情報をもとに今後の対策を検討する |
| 8 | 今後の方針と対応を各班へ伝達 | 各班の次の行動について質問を投げかける |
各班が次の対応について回答 例) 物資班:帰宅困難者対策を実施(物資の配布や避難場所の運営など) |
上記はあくまで一例のため、自社の状況に応じて適切なシナリオを設定してください。
災害対策本部向け訓練のシナリオ作成のポイント
実践的で効果的な訓練を行うには、シナリオの質が重要となります。ここでは災害対策本部を対象とした訓練シナリオを作成する際のポイントを解説します。
参加者が自分で考えられるシナリオに
災害対策本部訓練は参加者が考え、判断する力を養う訓練のため、時間経過によって状況が変わるシナリオがおすすめです。しかし参加者が考える間もないほどシナリオの内容を詰めすぎてしまうと、参加者が内容を理解できず混乱してしまったり、思考する時間が足りずシナリオに沿ってただ行動するだけになってしまったりなど、十分な成果が得られない可能性があります。
上記を回避するには、参加者が自分で考えて行動できるほどの余白をもたせたシナリオを作成することがひとつのポイントです。一方でシナリオの要素が少なすぎると、リアリティにかけてしまう可能性もあるため、過去に起きた災害などをもとにシナリオを組み立ててみるとよいでしょう。
当事者意識を持てるような工夫を
訓練のクオリティを高めるには本番さながらの状況を作ることが重要なため、参加者が与えられた役になりきり、緊張感をもって挑める訓練の設定が重要です。たとえば地震発生とともに津波注意報が発令されるなど、被害が同時多発的に起こる緊迫した状況を設定することで、参加者の当事者意識と緊張感をぐっと高めることができます。
また、災害発生の様子をイメージさせる映像を流したり、緊急地震速報の音声を用いたりなど、視覚や聴覚にうったえかける仕掛けも効果的です。気象庁では緊急地震速報訓練動画を公開しているので、ぜひご活用ください。
評価の視点を定めて事前準備を
災害対策本部向けの訓練で、特に重要となるのが意思決定と指示系統の部分です。これらに関して訓練の成果を正しく評価するには、あらかじめ評価軸を決めておくことが求められます。
たとえば、シナリオを作成する際にどのような意思決定が必要だったかをあらかじめ想定しておいて、訓練後に想定していた意思決定の項目を遂行できたかを評価していくなどの方法があります。評価・検証のチェックリストをあらかじめ作成し、訓練後の振り返りに活かしましょう。
訓練を実施する際のポイント

続いて、訓練を実行する際に押さえておきたいポイントを解説します。
目的や役割などを事前に伝える
参加者に自分事として挑んでもらい、訓練成果を高めるため、訓練を実施する前に情報共有をしておくことが重要です。訓練の目的や想定する災害規模などの前提条件、各々の役割をあらかじめ伝えて、訓練の概要を理解してもらいましょう。
この時点では、具体的なシナリオは伝えませんが、参加者が訓練の雰囲気をイメージしやすいよう進め方やルールなどを共有しておく必要があります。たとえば発災後に負傷者発生など状況変化があった場合は、付与状況カードをその都度配るなど、ルールを明確に伝えておくことで、当日に参加者が訓練に集中しやすくなります。
訓練後に反省会を必ず行う
災害対策本部訓練に限らず、訓練後は評価と検証が必要です。訓練をしただけで終わらないよう訓練後には反省会を必ず実施し、何が実行できて、どのような課題が生まれたかを全員でディスカッションしましょう。参加者全員から意見を吸い上げることが必要なため、アンケートの実施も効果的です。
訓練の成果を振り返るだけでなく、訓練計画やシナリオの妥当性を判断するうえでも、訓練後の効果検証は非常に重要な意味をもちます。反省会で明確になった課題や問題点は必ず改善し、次の訓練に活かしましょう。
ほかの訓練と組み合わせる
冒頭では図上訓練のシナリオを一例として紹介しましたが、図上訓練だけでなく、実動訓練の実施も必要です。実動訓練で実際に体を動かしながら行動を確認することで、図上訓練では気づかなかった課題も抽出できます。
また、災害対策本部訓練を実施する際は、意思決定訓練や情報収集訓練や参集訓練、災害対策本部立ち上げ訓練などを組み合わせて行うと効果的です。参加者の習熟度やレベルに合わせてさまざまなパターンの訓練を計画し、実行するようにしましょう。
参考:BCP訓練マニュアルの内容・作り方、訓練事例
災害対策本部訓練の質を高めるにはシナリオが重要
災害対策本部訓練は必要な情報整理や意思決定・指示などの能力を高めるために行う訓練です。状況にあわせて必要な情報を収集し、判断力を鍛えるためには、時間経過に合わせたリアリティのあるシナリオの作成が求められます。
しかし初回で完璧な訓練シナリオを作成するのはハードルが高いでしょう。シナリオもPDCAを回しながら改善していくことが必要なため、訓練後の効果検証もしっかり行うことが大切です。
このように訓練実施で得たノウハウはマニュアルとして残しておくことをおすすめします。詳しく知りたい方は以下をご参照ください。











