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避難勧告は、2021年の災害対策基本法改正によって廃止となりました。そのため、現在では避難指示に一本化されています。これまで通りであれば、避難勧告と同様のタイミングで避難指示が発令されると想定できるでしょう。
しかし、一本化されたとはいっても、具体的にどのような違いがあるのか理解できていない方も多いのではないでしょうか。 今回は避難勧告と避難指示の違い、一本化された理由、企業が避難に備えて行うべき対応などをみていきます。
避難勧告と避難指示の違い
ここからは、避難勧告と避難指示の違いをみていきましょう。具体的な違いを理解し、避難指示の重要性を知っておくことが大切です。
避難勧告とは
避難勧告とは、災害発生の可能性がある場合に前もって避難を促し、危険のない場所へ退却させるための忠告を意味します。2021年の災害対策基本法改正により廃止され、避難指示へ一本化されました。
避難指示とは
避難指示とは、人的被害発生の恐れがある場合に発令される警告です。発令時点でまだ避難していない人々は直ちに避難が必要です。時間的な余裕がないなどの理由で、安全な場所までの避難が難しい場合は、高層階のようなできるだけ高い場所へ移動し、生存を図る行動が求められます。
避難指示に一本化された理由
避難勧告が避難指示に一本化された主な理由として、分かりにくさを解消する目的がありました。ここでは、具体的な事例や政策を解説します。
分かりにくさの解消
従来の避難勧告では、市民が避難指示との違いを正しく理解できず、避難指示の発令まで退去しなかったために逃げ遅れる事例が発生していました。市民からは、避難勧告から指示へ切り替わった際に「危険性が緩和された印象を受ける」との意見も挙がっていたのが事実です。
このような混乱による市民の逃げ遅れを防止するため、避難指示へ一本化することになりました。一本化後は、避難勧告発令と同様のタイミングで避難指示が発令されます。
名称の簡略化
避難指示の一本化に伴い、関連する他の名称も簡略化されました。現在、大雨・洪水警戒のレベル3は「避難準備・高齢者等避難開始」から「高齢者等避難」へ。レベル5(最大)は「災害発生情報」から「緊急安全確保」へと、より簡潔で具体的な名称に変更されています。
「災害発生情報」のような名称では、市民が混乱状態のなかで確認した際に「何をすれば良いか、咄嗟の判断が難しい」との批判的意見があったため、併せて変更されたという背景もあります。
企業が避難に備えて行うべき対応
事前準備を何もしていなければ、災害が発生した際の的確な避難、行動の指示は不可能でしょう。ここでは、企業が避難に備えて行うべき対応をみていきます。
避難場所の決定
避難情報が発表された場合に迅速な避難を行うため、国土交通省が提供するハザードマップを参考に避難場所を決定しておきましょう。ハザードマップとは、過去の災害事例を基準に被災範囲や安全場所などを予測し、地図上に可視化したマップです。
また、避難場所の決定に並行して、勤務地の周囲に潜む危険性についても事前調査する必要があります。避難情報の発表をただ待つだけではなく、企業も社員の安全を考え、自発的に指示を出せるような準備が大切です。
BCPや防災マニュアルの策定
BCPや防災マニュアルを策定し、リスク発生時に行うべき安全確保のような対応をあらかじめ決定しましょう。BCPとは、緊急事態時の被害を最小限に抑え、事業を速やかに継続するための対策や方法をまとめた計画です。
また、防災マニュアルには、災害発生時の迅速かつ適切な対処、各人員の行動指針や役割分担の明確化などの目的があります。リスクが発生したとしても、混乱による対応の遅れや被害拡大の予防が可能です。
防災グッズの備蓄と安否確認
避難が必要となる事態の発生に備え、事前の防災グッズの備蓄が大切です。大規模災害の発生時は避難生活が長期化する場合もあるため、多めに1週間分の備蓄が求められます。
安否確認では被災状況の把握、事業継続の人員確保など重要な目的を果たします。しかし、電話など一つの手段に絞った場合、一時的な通信回線の混雑や通信規制などにより、安否確認が不可能となる恐れがあります。
東日本大震災当時における音声電話の発信ピーク時には、最大で通常の50~60倍にも及ぶ発信数があり、通信事業者によって通信規制が行われました。そのようなリスクもあるため、状況に縛られず安否確認が行えるよう、電話だけではなくさまざまな手段の確保が必要です。
避難指示が出ている場合の出社命令は避けるべき
避難指示が出ている状況には高い危険性があるものの、まれに指示に従わず出社命令が出されるケースが存在します。しかし、従業員の安全と企業のリスク双方からみても、避難指示発令中の出社命令は避けるべきです。
避難指示には法的な強制力はない
避難指示が発令された段階で高い緊急性や危険性があるものの、法的な強制力や罰則はありません。最高レベルの避難指示が発令され、事業主や責任者が従わなかったとしても、罪には問われないのが現状です。
企業は安全配慮義務を考慮しなければならない
労働契約法第五条では「労働者の生命や身体等の安全を確保しつつ労働できるよう、安全配慮をする義務がある」と定められています。避難指示が出されている状況で出社命令を出した場合、たとえ労働災害がなくてもこの「安全配慮義務」に違反する恐れがあります。
被害がなかったとしても安全配慮義務違反となった場合、企業としての信用が失墜し、糾弾されることになるでしょう。従業員の安全だけでなく、企業側のリスクという観点からみても、無理な出社命令は避けるべきといえます。
また、安全配慮義務違反によって労働災害が発生した場合、民法規定にて損害賠償が請求される可能性もあります。結果的に企業の不利益となるため、安全配慮義務の考慮は大切です。
まとめ
現在は避難勧告が廃止され、避難指示への統合により、非常事態の混乱が大幅に減少しました。これに伴い、大雨・洪水警戒レベル3、レベル5の名称についても短縮および簡略化が行われたものの、名称の変更が多い点には賛否両論の意見が挙がっています。
避難指示そのものには、法的な強制力や罰則は設けられていません。しかし、企業が避難情報の意味を正しく理解できていなければ、最悪の場合では逃げ遅れて労働災害が発生し、死傷者が出る恐れがあります。
まずは非常事態に備え、避難経路や避難場所の確認、BCP(事業継続計画)や防災マニュアルの策定、防災グッズの備蓄、安否確認手段の確保などの事項を優先して行いましょう。事前準備を入念に行っていれば、災害が発生した際にも、迅速かつ的確な避難や行動の指示が可能です。
また、避難指示発令中の無理な出社命令は、労働契約法第五条「安全配慮義務」に違反する可能性があります。従業員の安全だけではなく、自社の信用を守るためにも、安全配慮義務の観点は念頭に置いておきましょう。