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EMIS(イーミス)は、広域災害救急医療情報システムの略称を指します。大規模な災害が発生した場合に、病院の被災状況のような災害医療に関わる情報共有を始めとした、救護のサポートを行うシステムです。
しかし、EMISがどのような機能や役割を果たすのか把握していない方もいるでしょう。 今回は、EMISの開発に至るきっかけを踏まえたうえで、機能や共有可能な情報、災害時における役割、各機関の対応をみていきます。
EMISとは
EMISを利用するにあたって、開発理由の把握は重要です。EMISの開発に至ったきっかけ、導入状況を知りましょう。
開発のきっかけは阪神淡路大震災
EMIS開発の背景には、平成7年に発生した「阪神淡路大震災」が関係します。当時は各医療機関での情報共有が十分に行えず、運び込まれた傷病者数が病院規模に見合っていなかったり、光熱水路の断絶で機能が麻痺したり、想定外のトラブルが勃発しました。
阪神淡路大震災における問題は、被災地域で素早く、適切な医療や救護に関する情報の集約・提供を実行できなかった点です。このような教訓を踏まえ、EMISは各医療機関の状況を直ちに共有し、的確な処置を行うため、震災翌年の平成8年に開発されました。
EMISは全国的に導入されている
以前のEMISは、登録が義務化されていなかったため、非常時に未登録の医療機関の存在が発覚するなどの課題がありました。しかし、現在は厚生労働省の主導により全国的に導入されています。
災害発生後、各都道府県は、EMIS上で各病院の被災状況を収集するのが基本体制です。医療に従事していない一般市民でも、全国の運用状況を確認できます。
EMISの機能や共有可能な情報
ここからは、EMISの機能と共有できる情報をみていきます。EMIS上の公開情報は、一般市民向けと関係者向けで異なるため、それぞれの違いを知っておくことが大切です。
一般市民向け
一般市民向けに公開されている機能や情報は、次の通りです。誰でも時間に関係なく、EMISのホームページで閲覧できます。
・各都道府県の運用状況(体制、受け入れ患者数など)
・登録医療機関の検索
・救急医療に関する予備知識
・全国行政機関の連絡先
・災害対策マニュアルと対応事例
・地震や火災などの災害における前提知識
・災害救急リンク集
関係者向け
関係者向けの機能・情報は次の項目になります。一般市民向けよりも災害医療に特化した内容です。利用するには、機関コードやパスワードを使用してのログインが必要です。
・災害救急医療情報の登録および提供、集計、検索
・災害時の速報配信
・メーリングリスト、メールマガジンなどの情報共有化
・機関情報の管理
・EMIS上の運用状態の変更
・DMAT(ディーマット)の派遣、活動状況の確認
・被災地域の自治体から厚生労働省へ通報、問い合わせが可能
発災時、上記の機能や情報を咄嗟に活用するためには、EMISの登録を平常時に済ませておくことを推奨します。
災害時におけるEMISの役割
災害時におけるEMISの主な役割は、広域搬送、DMAT(災害派遣医療チーム)派遣の2点です。どちらも、災害急性期における負傷者の生存率を左右するため、必要不可欠な役割といえます。
広域搬送
災害発生直後、被災者の怪我の状態に合わせて被災地外の病院へ搬送する対処を「広域搬送」と呼びます。広域搬送を実施する場合、自治体や医療機関、消防などの各機関へ、被災地に関する最新情報の提供が必要です。
広域搬送における情報提供機関には、「広域災害バックアップセンター」が存在しています。東日本センター・西日本センターの2箇所で、県センターや医療機関などと連携しながら、災害医療の玄関口を担っています。
DMAT(災害派遣医療チーム)派遣
災害発生から48時間以内に、EMIS上に登録された最新情報に基づき、被災地へDMATの派遣が要請されます。DMATとは医師や看護師、その他医療関係者から構成された、登録制の災害派遣医療チームです。
DMATはEMISと同じく、阪神淡路大震災をきっかけに発足されました。災害医療における専門的な訓練を受けているため、従来の医療救護班よりも機動性に長けています。
EMISを利用した各機関の対応
ここでは発災時の医療機関や保健所、県における、EMIS上での対応方法をみていきます。実際に、EMISがどのように活用されているのかを認知可能です。
医療機関
EMISが災害モードへ切り替わった場合、およそ3時間以内に自院および周辺の被災状況を「緊急時入力」にて登録する必要があります。被害がない場合も、その旨を入力しなければなりません。入力済みの情報に変動があれば、その都度更新が必要です。
また、医療機関として機能できる状態か、傷病者の受け入れ状況などの情報を保健所に連絡します。停電やネットワーク使用不可などの事情でEMISを利用できない場合は、代行入力を保健所へ依頼可能です。
保健所
災害時における保健所は、管内の医療機関について、EMISを活用しながら情報の収集や提供を行う機関です。非常事態によりEMISへの情報入力が困難な医療機関が存在する場合、提供される情報に基づき、EMIS上の情報更新を代行する役割も果たします。
代行入力に当たって、EMISを利用可能なデバイスが設置されていない医療機関に対しては、情報収集のために電話やFAXなどを用いるコンタクトが必要です。いずれも難しければ必要に応じて、該当機関へ直接訪問するケースもあります。
県
県内で震度6弱を超える地震、県災害対策本部が設置されるレベルの大規模災害などが発生した場合、EMISの災害モードへの迅速な切り替えが必要です。続いて、EMIS内のメール機能を使用し、災害モードに切り替わった旨を医療機関や関係施設へ報告します。
また、県保健医療救護対策本部は、必要情報の収集・管理を行い、災害時の情報センターとして機能します。保健所や市町村災害本部を経て、住民や消防機関へ必要情報を提供するのが役目です。さらに、国家的な情報機関へ情報伝達を依頼します。
まとめ
EMISは、災害時における迅速な情報共有、広域搬送、DMATのような災害派遣など、さまざまな役割を持つシステムです。非常時に役立つ一部のコンテンツは、EMISに登録している医療関係者だけでなく、一般市民も閲覧できます。
災害モードに切り替わった際、EMIS上では医療機関や保健所、県の情報センターなどが連携し、情報の集約や共有に努めます。被災地だけでなく、その他の地域も一体となって災害医療を提供できるようになった点は、EMISにおける最大のメリットです。
開発当初はEMISを運用していくなかで、未登録の医療機関の存在、平時における訓練の不十分など、さまざまな課題が発見されました。課題に対しては、登録の義務化、EMISのマニュアルや研修などを充実させるといった見直しが幾度となく行われています。 利便性については今なお改善の余地がみられるものの、阪神淡路大震災で発見された主要課題は、EMISの誕生によりほぼクリアされたと考えて良いでしょう。